「宮城県美術館へようこそ」~仙台だより・その2

JW. Jの会の皆様へ

 仙台の森です。この3月には皆様と久々にお会いできると楽しみにしていたのですが、コロナ禍のぶり返しで延期となってしまいました。残念ですが仕方ありません。その代わりに、昨年5月に続いて、ネット上で近況報告させていただきます。

 2020年は、こちら仙台では、宮城県美術館――通称「県美」――移転問題で揺れに揺れた一年でした。話すと長くなりますので、ごくかいつまんで説明します。

 県美は、広瀬川べりの好立地と前川國男作の名建築を誇る、県民に長年親しまれてきた文化施設です。

宮城県美術館正面(今回の写真は緑濃い季節に撮影)

牛越橋から広瀬川を望む(左奥に川内住宅が見える)


 ところが2019年末、宮城県は、県美を移転して県民会館と一緒に建て直すという計画をぶち上げました。この無謀な計画に対して、各方面から中止を求める声が上がりました。東北大学関係者も、野家啓一名誉教授を中心に「有志の会」を立ち上げ、賛同人を150名集めて、移転計画中止を求める要望書を2020年1月、宮城県に提出しました。2月には学内で盛大にシンポジウムを開くなどしましたが、コロナ禍により3月から6月までは動きが封じ込められました。しかし7月には、県美の現地存続を願う各方面の人びとが連携し合う「県民ネットワーク」が新たに組織され、野家先生や私も加わりました。コロナに負けじと全県規模で市民活動が展開された結果、ついに11月、宮城県は移転計画撤回を発表したのです。歓声が杜の都に響き渡りました。

 私は2014年に仙台に引っ越して以来、自分がよく散歩する道の途中にある美術館に好感を抱いてきました。東北大学川内キャンパスのすぐ北に、私の住む宿舎があるのですが、その近隣に県美は立っています。ただし、私の散歩コースは県美直行ではなく、逆向きに宿舎裏手の牛越(うしごえ)橋から始まります。川沿いの土手が散歩やジョギング用に整備されており、公園のような河原をテクテク歩いて、もう一つの澱(よどみ)橋の手前まで来ると、川向うに建物の上部が見えてきます。周囲を威圧しない低層の造りで木々の蔭に隠れていますが、広瀬川の河岸段丘に立つ、まさに「崖の上の美術館」です。

広瀬川べりに佇む「崖の上の美術館」

美術館の北庭(すぐ裏手は広瀬川)


 澱橋を渡って、裏門から県美の敷地に入ると、まず北庭があります。点在する屋外作品が草木とマッチし、広瀬川のせせらぎが聞こえる小道を通り抜けると、県美本館と、併設された佐藤忠良記念館との間に、「アリスの庭」の愛称で知られる空間があります。

本館と佐藤忠良記念館の合間(アリスの庭)


さりげなく、佐藤忠良作の少年像が


 鏡の国に入り込んだかのような不思議なスペースに、宮城県出身の彫刻家、佐藤忠良や、その他の作家の愛らしい彫像が並んでいます。美術館正面に出ると、広々とした前庭に、やはり個性的なオブジェたちが出迎えてくれます。もちろん、折々の特別展には工夫が凝らされ、常設展もカンディンスキーやクレーの絵画など見どころいっぱいです。

記念館正面では、佐藤忠良の女性像がお出迎え


本館正面のオブジェたち

(ムーア「スピンドル・ピース」、カラヴァン「マアヤン」)


 コロナ禍が明けて、仙台にお越しの折には、牛タンや海鮮だけでなく、ぜひ広瀬川散歩と県美探訪をお楽しみください。お声掛けいただければ、拙いながら森が案内役をお引き受けします。そうそう、旅路のお供には新装版『自己を見つめる』をお忘れなく。


2021年2月13日 森 一郎


JW. Jの会

故渡邊二郎先生を慕う哲学の会。渡邊先生は東京大学文学部、同大学院で学び、成城大学助教授を経て、東京大学文学部助教授時代にハイデガーの思想研究のためドイツ・フライブルク大学に留学。東京大学名誉教授、放送大学名誉教授。

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